Sonarworks / Reference 3 レビュー【前編】
講師の鈴木です。
DAW環境で曲を作る上で、何が1番重要でしょう? 個人的には最初に音源。そして2つ目がモニター環境だと思っています。音源の重要性は言わずもがな…ですが、2つ目にモニター環境を持ってきた理由は、これによって作業のやりやすさと精度が天と地ほども変わってくるから。
ということで、今回はモニター環境を劇的に改善してくれるアイテムとして今注目を集めている、Sonarworksのキャリブレーション・プラグイン「Reference 3」をレビューしてみます。
かなり長文になってしまいましたので、前後編に分けてお送りいたします。
http://www.minet.jp/brand/sonarworks/reference-3-speaker/
後半はコチラ
https://dawlesson.net/review/170505-2/
モニター環境って大事ですよね…
「エンジニアじゃないし、曲作りに良いモニターはいらないでしょ〜」なんて言う人もいます。その気持ちは凄く分かります。昔の私もまさにソレでしたから。スピーカーにお金掛ける前に音源やプラグインが欲しい! っと。。
だからこそ言えるのですが、これは間違っていたなぁ、と。やりやすいモニターだと、アレンジの段階から音決めに迷う時間が減りますので、色々な面で精度が上がります。アレンジが決まるとミックスもやりやすくなる、という好循環に。逆にアレンジで悩んだりまとまっていない場合は、恐らくミックスでもどうにもできないケースが多いと思います。
と、まぁモニターが大切だよ。というお話なのですが、これがとても難しく宅録の最大のテーマと言っても過言ではありません。我々が聞いている音の半分以上は、スピーカーから直接耳に届く音ではなく、周囲の壁や天井で反射した音ですから。どんなスピーカーを使うかも大事ですが、それ以前にどんな部屋で鳴らすかが重要になる訳です。
スピーカー・キャリブレーションの難しさ
このような「部屋」の問題を解決する方法として最も一般的なのは、スピーカーの設置方法や、吸音/拡散によって整音を行うルーム・チューニング。ただ、それも個人では限界がありますのでIK MultimediaのARCに代表されるスピーカー・キャリブレーション・プラグインが人気。
測定結果を読み込んだプラグインをDAWソフトの最終段にインサートすることで、部屋の特性を反映させたサウンドを出力しよう、という発想の製品です。イメージ的にはマスターEQを掛けているのと同じ。GenelecのSAMシステムも似ていますが、こちらは測定結果をスピーカー自体に転送。DSPでフィルターを掛ける、というコンセプトの製品です。
私自身、ARCはversion1が出てすぐ手に入れましたし、2も買いました。でも、どちらもすぐに使わなくなったという過去がありまして。どうしてかというと、補正で気になる点がいくつもあったからなんです。
まず1つ目は、同時に最大の理由が補正された音が気持ち悪かった。知人の家ではそこまで変に感じなかったのですが、自分の環境ではフィルターが掛かった感じで、確かにフラットなのかもしれないけど、これで曲は作りたくないな…と思ってしまったんです。2からAudysseyのアルゴリズムが使われて、確かに良くなったと思うのですが、やはり合わなかった…。。
もちろん使い続ければ慣れる、それも事実だと思います。そして2つ目の理由。測定が難しい。例えばARCの場合は7〜16箇所にマイクを立てて、ポイントポイントで特性を解析していくのですが、ソフトウェアが指定する場所にちゃんとマイクを立てられているのか!? と。
ヒューマン・エラー…つまり自分が測定ミスをしていたら、それは結果も好ましくないのは当然。何度か挑戦はしたのですが、最終的に疑心暗鬼になって使わないことを選んだ訳です(笑)。
そこでSonarworks。名前自体は海外のフォーラムで見ていましたが、ちゃんと知ったのは今年のNAMMだったと思います。どうやら、ARC2より評判良いっぽいぞ! ということで試してみたのです。
大分前置きが長くなってしまいましたが、結果から。これ、凄いです。ARCで気になっていた部分がすべて…とは言わないまでも、8割形解決されており話題になるのも頷けるな、と。
凄いぞ! と思った部分を順に見ていきます。
測定のミスが起きにくい
まずは、部屋の特性を測定していきます。スタンドアローン動作の測定アプリを使って測定していくのですが、基本的には画面の指示に従って操作していけばOKです。とりあえず、まずはマニュアルを読まずにやってみました(笑)。
最初の測定は、スピーカーの距離15cm以内にマイクを向けろ。というもの。これを左右に行うことで、左右のスピーカーの距離が自動的に計算されます(すげぇ!) マニュアルで微調整できるので、ウーファーのボイス・コイル間の距離をしっかり入力しておくことが測定精度を出す際に重要になります。
次にリスニング・ポイントにマイクを立て、今度はスピーカーとの距離を測定。「なんとなく」ではなく、いつも座ったときに耳がくる位置を図ってマイクを立てるべき。これも、自動測定後にマニュアルで微調整が行えます。
ここまででも、凄いなー と思っていたのですが、本当に驚いたのは次のフェーズ。リスニング・ポイントを中心に24箇所の測定を行うのですが、スピーカーから常にテスト音を出力することで、マイクがある位置を自動検知し、画面に表示。
位置はリアルタイムに反映されており、後は指定のポイントにマイクのアイコンが入るような位置に、画面を見ながら移動していきます。
指定ポイントに入ると自動で測定が行われ、次のポイントに移動。この繰り返しで測定していきます。前情報なく作業していたので、最初は本当に感動しました。この測定システムにより、ARCのように測定ポイントのズレによる測定ミスが起こりにくいのです。
ただ、1点気になったのは測定ポイントの範囲が意外と広く、同時にポイントに入ってから測定までの待ち時間もほとんどないという点。そのため、マイクを動かす際にはしっかりマイクが正面を向いているかを意識し、指定ポイントに入ったらサッとスタンドから手を離す。このタイミングだけ、少し慣れが必要だと思います。
補正結果を聞いてみた
24箇所の測定が終わると、結果が表示されて測定は完了です。後はDAWを立ち上げて、マスター・トラックに補正プラグインをインサート。測定結果のプロファイルを読み込めば、それに応じたフィルター処理が行われます。
補正されたサウンドは、とてもバランスの良くて作業しやすい感じのサウンド。補正しているんだから当たり前だろう! と言われてしまいそうですが、周波数特性的なフラットというよりも、Sonarworksの考えるリファレンス・モニター・サウンドに補正しているのかな、という印象です。
全帯域に渡って聞きやすくなるのは当然なのですが、ある程度音楽的な鳴りも残してくれているようで、スピーカー・キャリブレーション特有の「のっぺりしたつまらない音」という印象は薄く、個人的にもこれなら全然許容範囲内。
違う環境、違うスピーカーで試しても似たような印象のサウンドになったので、そういうキャラクターなのかと思います。また好みによってサウンドの微調整も可能です。
なお、スピーカーのエミュレーション機能も搭載されており、テンモニとフランス製hifiホーム・スピーカーの特性を再現も可能。一応試してみましたが、似ている/似ていないは関係なく、これは使わないかなぁと。
長くなってきましたので、後半に続きます。後半ではSYSTEMWIDEアドオンやヘッドホン・キャリブレート、そして多くの人が気になっていたのでは? 専用マイクについても検証しています。
Sonarworks / Reference 3【後編】
https://dawlesson.net/review/170505-2/