今すぐ使える音楽制作のTips 第4回 マスター・クロックの効果とサウンド変化
講師の鈴木(@dawlesson)です。
個人的ではありますが、最近空いた時間に“当たり前に使っているものを、もう一度見直してみる“というのを行っています。
その1つとして先日テストしていたのが「マスター・クロック」。マニアックな機材ですが、レッスンでも意外と聞かれることもあったりするので、一度まとめておこうと思います。
また、昨日のライブ配信でもクロックをテーマに配信しましたので、アーカイブも張っておきます。
そもそもクロックって何なの?
マスター・クロック云々については、制作だけでなくデジタル・オーディオ系のコンテンツでも取り上げられることが多いので、ご存知の方も多いと思いますが…。一応紹介しておくと、デジタル機器を動作させる基準となる時計です。
例えば、サンプリング周波数=44.1kHzというのは、1秒間に44,100回のサンプリングを行うということ。つまり、1/44,100秒を正確に測る必要が出てきます。そのため、デジタルのオーディオ機器…例えばオーディオ・インターフェイスやデジタル出力/入力が可能なアウトボードには、すべてクロックが内蔵され、そのクロックが作り出した時計に合わせて動いている訳です。
ここで1つ問題があります。クロックには多かれ少なかれ、必ず揺れが生じてしまうということ。この揺れのことを「ジッタ」と呼びます。これもよく耳にする単語ですよね。一般にジッタが増えると、超高域の聞こえ方に差が出るとされています。
そんなサウンド面のブラッシュアップと同時に(重要性としては、ある意味それ以上)、複数機器間での同期を取るというのもクロックの大切な働きです。同期がとれてないと、再生中に「プツッ」というノイズが入ってしまいます。 逆に言えば、デジタル機器でもアナログ接続の場合は、(動作上は)必ずしもクロックを同期させる必要はない… ということでもあります。
クロックの同期(合わせ)方
クロックを同期させる方法はいくつかあり、使用する機材の端子形状に合わせて使い分けることができます。一般にクロックというとBNCでやりとりするケースが多いと思いますが、S/PDIFやAES/EBUといったデジタル・インターフェイスは、音声信号と一緒にクロック信号も送受信することができます。
いずれの場合も、クロックの送り出し側が「マスター」、受け側が「スレーブ」になりますので、各機器もその通りに設定してあげます。
接続する機器の数が少ない内は、直列につないでもOKですが、増えていくと信号レベルが下がるのを防ぐために並列でつなぐ必要が出てきます。マスター・クロック・ジェネレーターに複数のクロック出力があるのは、このためです。
サウンド変化を聴き比べてみた!
…と、能書きはこの位にして、実際にどの程度のサウンド変化が起こるのか、手持ちの機材でいくつかのバリエーションで聴き比べてみました。
テスト方法としては、DAにApogeeのSymphony I/Oをそれぞれのクロックで動作させ、アナログ出力からマスター・レコーダーのTASCAM / DA-3000にレコーディング(wav)するというシンプルな方法で行っています。
テストのサンプルは、ドラムとアコースティック・ギター、それとオケの3パターンです。
SoundCloudやYoutubeにアップしてしまうと音が変わってしまうので、非圧縮のデータをzipでアップロードしますので、ぜひご自身の環境で聴き比べてみてください。
※ファイルは録ったままの無編集ですので、ファイルによって無音時間等に差がある点はご了承ください。
1.Antelope / Isochrone OCX
現在、マスター・クロックとして使っているモデル。現在は後継モデルのOCX HDが販売されていますが、Antelopeのクロックは割と定番の製品だと思います。OCXは、出力周波数を/2、/4できる機能が付いているので、今回は48kHzの場合、192kHzに設定して1/4した場合の両方でテストしてみました。
[amazonjs asin=”B01BMS5QAW” locale=”JP” title=”Antelope Audio アンテロープ マスタークロック OCX HD (768 kHz HD Master Clock)”]2.Apogee / Symphony I/O
Apogee社のオーディオ・インターフェイス。1世代前のフラッグシップ・モデルです。インターナル・クロックで動作させてみました。
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DSDに対応したマスター・レコーダーです。TCXO(温度補償型水晶発信器)を搭載していたりと、実はクロックにもこだわった設計になっています。
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普段、メインで使っているインターフェイス・カードです。詳しくは後述しますが、RMEの製品にはSteadyClockというジッタを抑える機能が付いています。恐らく、Firefaceシリーズともそう大きく変わらないのではないかと…。
[amazonjs asin=”B010Q63R3E” locale=”JP” title=”RME ヘッドホンアンプ・DAC Babyface Pro”]マスター・クロック・ジェネレーターは必要なの?
いかがだったでしょうか? 「こんなに変わるのか!」と思った方もいれば、逆に「正直、ほとんど違いが分からん…」と思われた方もいるはずです。この辺りは、環境にもよりますし。。
クロックで確実にサウンドは変化しますが、決して安い機材ではありませんし、コストに見合っていると感じられるかがポイントになってくると思います。このあたりは高級ケーブルと同じような感じでしょうか。
個人的には、音質向上を狙ってオーディオ・インターフェイスだけに使うというのは勿体ないかなぁ、と思っています。例えば5万円のインターフェイスに、20万のクロックをつなぐのであれば、15万のオーディオ・インターフェイスに買い換えた方がきっと幸せになれますから…。
逆に、複数の機器やシステムを使うのであれば重要性は一気に増します。クロックの精度が変わると、プロジェクトの尺も変わりますので、例えばライブレックなどでバックアップを回す場合に2システムのクロックが違うと… 悲惨なことになると思います。
また、一部の機器では外部クロックを内部で作り直してしまうモデルもあります。代表的なのがRMEのインターフェイスに組み込まれているSteadyClock。これは入力されたジッタを機器内部で整えるという機能ですので、どんな高価(高精度)なクロックを入れても、SteadyClockに作り替えられてしまい、その恩恵を活かすことができませんので、注意が必要です。外部クロックで遊ぶことはできませんが、常に安定したクロックで動作できるというメリットもあります。
逆にクロック専用機並の精度を持たせたインターフェイスもあります。代表的なのが、Antelopeのオーディオ・インターフェイスでしょうか。自社のマスター・クロックと同精度のクロッキング技術が搭載されているということで、総合的なコストパフォーマンスも高いモデルではないでしょうか。
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