IK Multimedia / EQP-1A レビュー
講師の鈴木(@dawlesson)です。
T-RackS モジュール、10製品目はTube Program Equalizer model EQP-1Aを紹介します。確か、T-RackSシリーズにアナログ・モデリングが追加され始めた初期からあったモデルだと思います。いわゆるパルテック・タイプのEQは個人的にも大好きで、使わないプロジェクトはないほど。IKのパルテックもバージョン5になって、かなり良くなった印象です。
PultecタイプEQの基本的な考え方や使い方とともに見ていきましょう!
Pultec EQの基本
IK MultimediaのEQP-1Aは、1960年ごろに登場し、今なお絶大な人気を誇るPultecのEQP-1AというアナログEQをモデリングしたEQプラグインです。
このPultec EQは、アナログEQの定番スタイルになっており、IK MultimediaだけでなくUniversal Audio(UAD)、Waves、Softube、Nomad Factoryほか、各社から発売されていますので、何かしら持っているという方も多いと思います。
Pultec EQを知る上で、ぜひとも知っておいて欲しいのがその構造… といっても、小難しい話ではなく、回路の中にトランスと真空管回路が入っているということです。昨今のレコーディング環境において、トランスによるサウンド変化が注目されることも多いですが、要するにEQをいじらなくても(ブーストもカットもしない)、通すだけでサウンドが変化するのがPultec、ということです。 この辺りは後ほど改めて触れます。
EQP-1Aを各部の役割ごとにザックリ分割すると、こんな感じになります。各セクションごとに見ていきましょう!
低域バンド / ロー・シェルフ
まずは低域バンドから。Pultec EQの最大の特徴は、同一周波数に対して、ブーストとアッテネート(つまりカット)が同時に行える点。特徴であると同時に、混乱の原因になっているかもしれませんね…。パラメーターはシンプルで、
- LOW FREQUENCY:EQ効果を与える周波数を、20/30/60/100Hzの4ポイントから選択します。
- BOOST:ブーストします。
- ATTEN:カットします。
低域バンドはシェルビング・カーブなので、選択した周波数より下の帯域に広くEQ効果がかかります。
ブーストとカットを同時に行うと…
同じ周波数にブーストとカットを同時に行うと何が起きるのでしょうか。算数的に考えると、足し引きゼロになるので意味ないんじゃない? なんてイメージしてしまいまいますよね。
実際に実機のマニュアルにも併用することに関しては懐疑的な記載がされているようなのですが、設計/理論上は正しくなくても、カッコ良い音が出来ればOK! 多くの場合、ブースト/アッテネートを併用して使うことになると思います。
実際にどのようになるのか、ホワイト・ノイズを使って実験してみました。
ブースト時のカーブ
60Hzを最大までブーストすると、こんな感じになります。
400Hz付近から緩やかに効果が掛かっているのが分かります。
カット時のカーブ
続いて、同じ周波数をカットしてみると…
1kHz付近からなだらかにカットされていきます。ブーストとカットで、効果がかかる周波数帯域がずれているのがポイントです。
ブースト&カットすると…
最後にブーストとカットを同時に行ってみると、こんな感じ。
ブーストの方が優先されているのがわかります。また、周波数帯域が微妙に異なるため、500Hz〜1kHz付近にはカットの効果が反映されて“くぼみ“ができているのがポイント。
要するに“ブーストした周波数のちょっと上をほんのりカット”状態を自然に作ることができるという訳! これはミックスにおいて非常に効果的なテクニックで、“くぼみ”を付けることでブーストを効果的に聞かせることができます。このテクニックを知らなくても再現できるのが、EQP-1Aの魅力です。
高域ブースト/ピーキング
高域も基本的には低域バンドと同じ…と思いきや、ちょっと違うもの。まずはピーキング・カーブであるということ。実はコレがポイントになってきます。
また、低域バンドはブーストとアッテネートが行えましたが、高域バンドはそれぞれ独立しています。
- HIGH FREQUENCY:ブーストさせる帯域を3/4/5/8/10/12/16kHzから選択します。
- BOOST:ブースト量を調整します
- BANDWIDTH:EQ効果がかかる範囲…つまり「Q」に相当するパラメーターです。一般的なEQのQは、数値を上げていくと範囲が狭まっていきますが、BANDWIDTHは逆。数値が小さい方がピンポイントに効果が掛かります。
高域アッテネート/シェルビング
アッテネート・セクションは、シェルビング・カーブが設定されています。
- ATTEN SEL:カットを行う周波数を5/10/20kHzから選択します。
- ATTEN:アッテネート(カット)量を調整します。
カーブとしては、こんな感じ。表示されている数値をマトモに見てもあまり意味がないことが分かって頂けると思います。大切なのは、耳で聴いて判断すること!!
ブーストとカットを同時に行うと…
高域に関しても、ブーストが優先されますので、ブーストとカットを両方行うと、こんなカーブになります。
ちょうど、シンセでローパス・フィルターでレゾナンスを上げているのに近いカーブ。ブーストした周波数にある音を、より強調して聞かせることができるのです。
“通すだけ”のサウンド変化
冒頭でも紹介した通り、トランスと真空管ゲイン回路が入っているので、通すだけで生じる独特のサウンド変化がEQP-1Aの魅力。
そもそもは、パッシブEQのように出力音が下がらないようにするのが目的なのですが、その副産物として”色付け”が得られ、プラグインでも、その微妙なサウンド変化が再現されています。
各社のEQP-1Aプラグインを聴き比べてみると、モデルによってサウンド変化にはかなり差があることが分かります。いずれもYouTubeの動画では差が分からないかも…レベルの変化ではあるのですが、その中でもIK MultimediaのEQP-1Aはかなり薄味でした。
最も分かりやすい違いはレベル。他の多くのプラグインに関しては、通すだけでレベルが上がる(1dB以上上がるプラグインもあります)のですが、IK Multimediaに関してはほぼ変わらず。
ちなみに、試した中で逆にサウンド変化が大きかったのがWavesでした。どちらが良い…というものではありませんが、すっきりとした質感のIK MultimediaのEQP-1A、個人的には好きです。