Waves / Tony Maserati Signature Series レビュー

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講師の鈴木です。

引き続き、Wavesのシグネチャー・シリーズを紹介していきます。今回はTony Maserati。R&B系のトラックを主に手がけている同氏。特に有名なのはビヨンセでしょうか。代表曲、Crazy In Loveも手がけていたはずです。その他にもJay-Z、メアリー J、アリシア・キーズ…と、蒼々たる経歴の持ち主です。

各プラグインも、やはりR&Bやヒップホップ系のサウンド・メイクにピッタリな印象です。

目次

Maserati B72

ベース用のエフェクトです。パラメーターはシンプルですが、効果は絶大。ベース・タイプはDIとSYNTHの2タイプが用意されており、パラメーター通り使い分けるのが基本。とにかく太い音が簡単に作れます。

DIはDIで拾ったエレキ・ベース用のアルゴリズムで、BASSとTREBLEはEQというよりもプリアンプの「BASS」、「TREBLE」に近いサウンド変化を得ることができます。それ以上に音に影響するのが、エフェクト感度を調整する「SENSITIVITY」。LEDがグリーンのときが適正。イエロー、レッドになるとホットになっていくのですが(これは他のプラグインでも同様です)、コンプ感が激変します。掛けていくとブリブリというか、ブォンブォンというイメージでしょうか。

パッシブの大人しめのベースでも、一瞬でCrazy in Loveで聞けるようなアグレッシブなベース・サウンドに激変します。

なおSYNTHモードでは、FXとTONEのパラメーターが開放される仕組み。FXは単体エフェクトではなく、複数の効果が合わさったもの。倍音感が増して、ステレオ音像も広がるのでちょっと癖があるかも…。サウンドに合えば唯一無二の効果を得られると思いますが、合わないときは本当に合わない気がします。

なお、トグル・スイッチをSENDモードにすれば、EQやコンプがバイパスされてエフェクト・セクションだけを掛けられるようになります。

Maserati ACG

アコギに特化したプラグインで、掛けるだけでローカットが入り、抜けてくるようなアコギ・サウンドが作れます。

ギターのタイプはACG1とACG2の2タイプで、基本となるサウンドの傾向がまったく違います。

ACG1はハデ目のサウンドで、アルペジオに掛けるだけでR&B系の楽曲でよく聞く”あの感じ”が再現できます。PUNCHやEXCITEで押し出し感、キャラクターのコントロールができますが、基本的にど派手に掛けるのに向いている印象です。 The R&Bアコギ・サウンド!

 

ACG2に切り替えると、パッと聞き大人しくなったように感じるのですが、これはコンプが深くなっているからでしょうか。主張させたくないバッキング系にマッチすると思います。

Maserati DRM

続いてドラム用のMaserati DRM。BD(バスドラ)、SNR TOP(スネア・トップ)、SNR BOT(スネア・ボトム)、HH(ハット)、TOM(タム)、OH(オーバーヘッド)、ROOM(ルーム)の7アルゴリズムが用意されています。楽器に合わせて、EQの中心周波数とコンプの設定などが変わります。

パラメーターが少し分かりにくいですが、THUMPはローミッドで、音の「太さ」をコントロール。SNAPはトランジェントの調整を行うパラメーターです。つまり、太さ、立ち上がり、高域の3つの要素で音作りしていくイメージ。生ドラム、音源、リズム・マシンと音色を問わずに使えると思います。

中でも印象的なのがBDとROOM。BDはファットな音が簡単に作れ、かつTHUMPでトランジェントを弄ってやるだけでドッ〜ボフッという質感を簡単にコントロールすることができます。

ROOMが便利なのは、ドラム音源の場合でしょうか。音源のルームは全体的に音像がボヤケやすく、音作りとしては使いにくい印象があるのですが、Maserati DRMを使うことで簡単にビシッと決まるサウンドになってくれます。

Maserati GRP

グループ・チャンネル…つまりバスやステムに対してインサートするのが本プラグイン。

掛けるバスに応じて「DRUMS LIVE」、「DRUMS PRGM」、「GUITARS」、「STRINGS」、「KEYS」、「BGV」、「MASTER」と7タイプが用意。

ちなみに、恐らくDRUMS LIVEは生ドラム(ドラム音源含む)、DRUMS PRGMはリズムマシンという使い分けになるかと…。そしてBGVというのはバックグラウンド・ボーカルの略です。

なぜか存在を見落としていたプラグインで(汗)、初めて使ったのですが、これ、めちゃくちゃ便利です! 3バンドEQ+コンプというシンプルなパラメーターですが、簡単に想像した通りの質感に揃えてくれます。

バス系のエフェクトというと、ど派手に掛かってくれるものが多い印象なのですが、Maserati GRPはサウンド変化としてはかなり控えめ。オーバー・コンプでバシュッとした音を作る! 等は苦手ですが、EQとの組み合わせでオケの中での奥行き感をコントロールする…という本来であれば難しい前後の調整が簡単に行えます。存在感、という表現が正確かは分かりませんが、コーラスを後ろに持っていきたい。とかドラムを音を変えることなく前に出したい。なんてシーンで便利に使えると思います。

Maserati GTI

エレキ・ギター用のプラグインが、このMaserati GTIです。

「CLEAN」、「CLEAN CHORUS」、「HEAVY」、「THICK RHYTHM」、「SOFT FLANGE」と5種類のGUITAR TYPEから基本となるサウンドを選んでいきます。

基本的にアンプ・シミュレーターではないので、すでに作った音に対してインサートしていくエフェクトだと思いますが、CLEAN、CLEAN CHORUSあたりはDI直の方がマッチする印象です。クリーン系はハムよりシングル(ピックアップ)の方がマッチする感覚があります。CLEAN CHORUSはJCコーラスのような分かりやすいサウンドなので、使い勝手も良いと思います。

HEAVYやTHICK RHYTHMはリズム・ギターや歪んだ音用のアルゴリズムですが、ロックやポップス的なギターが主張するような音よりも、サイド・ギター的に鳴らしたい音、アクセントで使いたいというシーンにマッチすると思います。R&B的に言えば、THICK RHYTHMはエレピやストリングスに掛けても面白いのかな、と。

SOFT FLANGEはモジュレーション・フィルターの掛かった変態的なサウンドまでカバー。ギターを飛び道具やFX的に使いたいときに使えそうです。

Maserati HMX

製品名をダイレクトに見ればハーモニクス系のエフェクト・プラグインということになるのでしょうか…。印象としては、生っぽさを付加する空間系エフェクトというイメージです。

モードは「MODAL」と「BOUNCE」の2種類が用意されていて、ここで与えるエフェクト効果を選択します。MODALを選ぶと、コーラス的な揺れ+リバーブが。BOUNCEモードではピンポン・ディレイ+リバーブが加わります。

ですが、既存のリバーブとはまったく違った印象を受けます。通常のリバーブは、残響を足して空間を演出するというイメージですが、Maserati HMXはルーム感を原音に直接加えるようなイメージ。少しタイプは違いますが、UADのOcean Way Studioのように、あたかも最初からその部屋で鳴っていたかのようなサウンド・メイクが行えます。ハーモニクスと言っていますし、倍音も弄っているのでしょう。

これで得られる効果は、トラック内での存在感。通常のリバーブは掛けていくと音が奥に引っ込んでいくようなサウンド変化になりますが、特にMODALモードで使うと反対に浮き上がってくるような音を作ることができます。この後段にEQをインサートしてハイを削ると、何ともいえない浮遊感のあるサウンドを作ることができます。

キーボードやストリングス系の音色だけでなく、コーラスに掛けてもイイ感じの質感が作れます。

Maserati VX1

ラストはボーカル用のMaserati VX1。ボーカルは処理にそのエンジニアの癖が出やすいパートだと思いますが、このプラグインを見る限り、Tony Maserati氏のボーカル・チェインはすごくシンプルなことが分かります。

メインになっているのが空間処理。CONTOUR1〜3で基本となるリバーブのキャラクターを決めるところからスタートしていきます。空間の広さでいえば、中-大-小 といった感じでしょうか。もちろん、リバーブ・タイプだけでなく組み合わさっているエフェクトと、掛け方も変化します。恐らく、ローカットの周波数まで変わっているかと。

EQはBASSとTREBLEの2バンドで、TREBLEは2KHz以上〜。BASSは1KHz以下…とかなりザックリとしたフリーケンシー設定になっている点は少し注意が必要です。ある程度ちゃんとしたマイクと環境で録ったテイクであれば、これだけで効果的な音作りができますが、そうでない場合は前段でミッドの細かい補正を行っておかないと、カリカリするだけのボーカルになってしまう可能性もあるかと…。

コンプもナチュラル系。なおCONTOUR 3を選択した場合はコンプがAIRというパラメーターに変化します。これもEQの1種で、設定値によってピーキング〜シェルビングに変化します。

リバーブとディレイが入っていますが、ディレイはリバーブ成分に掛かっているので深めに掛けてもオケの中でごちゃごちゃしなくて使いやすいと思います。

まとめ

ということで、Tony Maserati Signatureシリーズに収録される7つのプラグインを見てきました。全体的には、やはりR&Bやヒップホップ系に合うサウンドで、そういう意味では汎用性の高いエフェクトではないと思います。ですが、コレ系のサウンドは音作りの方法論が分かっていないと作りにくいサウンドでもあるので、下手に汎用性の高いエフェクトよりも、持っていて勉強になり、即戦力でも使えるものかと思います。

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