BEST SERVICE / CHRIS HEIN SOLO VIOLIN レビュー
講師の鈴木です。
前回に引き続き、ストリングス音源第2弾としてBEST SERVICEの「CHRIS HEIN SOLO VIOLIN」を紹介します。
割と新しめのライブラリですね。CHRIS HEINシリーズはブラスやホーン・セクションで定番ですが、弦のライブラリは初ではないかと思います。
名前の通りソロのヴァイオリン音源で、前回紹介したVienna Instrumentsのライブラリにレイヤーして使うことが多いです。イメージ的にはViennaでヴァイオリン全体の雰囲気を作り、そこにCHRIS HEIN SOLO VIOLINで芯を付ける、みたいな感じでしょうか。値段も手頃で、かなり使い勝手の良い音源だと思います。
http://www.crypton.co.jp/mp/do/prod?id=39661
ヴァイオリン専用音源
製品名からも明らかですが、ソロ・ヴァイオリンに特化したライブラリです(アンサンブルのように聞かせる機能もありますが…)。ライブラリはKONTAKTエンジンで、パッチ自体も超シンプルです。ライブラリ全体としては4GB/約10,000サンプルということですが、使用環境にもよると思いますが、特に重いといった印象はなくサクサク動きます。ちなみに、ベロシティー・レイヤーは最大8段階です。
ライブラリの素の音は、普通のヴァイオリンといった感じ(笑)。当たり前のように聞こえると思いますが、過度な脚色がないので色々な用途で使いやすいと思います。他の音源もそうですが、若干ハイが出ているので5〜6kHz当たりをEQで軽く削って削ってあげると声との馴染みも良いと思います。
38のアーティキュレーション
アーティキュレーションは38種類とかなり充実。収録アーティキュレーションの詳細は割愛しますが、主要奏法からFallやSlide Up/Downのようなモダンなアプローチやエフェクト的に使えるものまで網羅されていますので、これだけあればまず困ることはないと思います。
これらのアーティキュレーションを組み合わせ、切り替えながらデータを作っていくのですが、本ライブラリの大きな特徴が「フェーズ・アライメント」という機能です。これはサンプルの位相を自動的に合わせてくれる機能ということなのですが、この機能によってアーティキュレーションを切り替えたときに希に生じる違和感を感じることがありません。
ライブラリによっては位相がズレているものも多く、フレーズが綺麗に繋がらない…なんてことも多いと思いますので、こういった機能は非常にありがたいです。
アーティキュレーションはMIDIノートやMIDI.CCでコントロールすることができます。また発音させながら「HOT KEY」を入れると音色にリアルタイム効果を与えることもできます。例えばビブラートやトリル、トレモロ、キー・リピートなどがこれに当たり、アーティキュレーションを切り替えることなく簡単に表現を与えることができます。
ダイナミクスのコントロール
先述の通り、最大8段階のベロシティー・レイヤーを収録していますが、単純にベロシティーだけでなく4つの方法でダイナミクスを調整することができます。
・Keyboard
ベロシティ値でレイヤーを切り替える、サンプリング音源の一般的な挙動です。
・X-Fade
MIDI CCでコントロールします。
・Keyboard & X-Fade
ベロシティーとCCの両方でコントロールすることができます。
・Auto X-Fade
自動的にダイナミクスを与えます。ダイナミクスのカーブはマウスで簡単に入力することができ、プリセットとして5タイプまで保存することができます。
ほとんどの場合、Keyboard & X-Fadeで使っています。恐らく、MIDIキーボードで入力している方は1番コントロールが効きやすいのではないかと思います。
ノート・ヘッド
この音源の最大の特徴が、この「ノート・ヘッド」機能だと思います。簡単に言えばサスティンなどロング系サンプルと、スタッカートやスピッカートなどのショート系サンプルを組み合わせたり切り替えたりできる機能です。
ヴァイオリンのフレーズは、ロング・ノートの白玉の間を、ショート系フレーズで繋ぐようなケースが多いと思います。ここで言うショート系フレーズというのは、駆け上がりやランなどの音価の細かいフレーズだと思って下さい。
サスティーン系音色は音のアタックもゆっくり目なので(当たり前ですが…)、早いパッセージを鳴らしても音のアタック部分をハッキリ鳴らすことができません。そのため、ちゃんと鳴らしたい場合にはその部分だけショート系のサンプルに切り替えたり、サスティンの音にスピッカートをレイヤーして鳴らしたりする必要があります。前回紹介したVienna Instrumentsの場合もまさにコレで、そういったマトリクスを組んでいたのですが、CHRIS HEIN SOLO VIOLINは同じことが極めてシンプルに行えます。
こちらもKeyboardとX-Fadeの2種類から動作を選択可能で、音価はMIDI CCで切り替えることができます。また、STACKボタンをONにすれば元のアーティキュレーションに、ショート・ノートがレイヤーされるので、音色ニュアンスを保ったまま、音のアタックを付けることができます。
切り替えるショート・ノートの音価はMIDI CCでの切り替えも可能。この機能だけでも”買い”だと思っています。
レガートも充実
LASS(LA SCORING STRINGS)の登場以降、昨今のストリングス系音源では当たり前になったレガート。CHRIS HEIN SOLO VIOLINでも当然再現可能です。
CHRIS HEIN SOLO VIOLINがユニークなのが、レガート奏法(2つのノートをオーバーラップさせたとき)とサスティン・ペダルをONにしたときで別の挙動をさせることができる点です。挙動は以下の4タイプから選択することができます。
・Polyphon:レガートさせたくない場合に使用します。また、このモードでは和音を演奏させることができます。
・Legato Short:短い(速い)レガートを与えます。スピードは微調整が可能です。
・Legato Long:長い(遅い)レガートを与えます。スピードは微調整が可能です。
・Glide-Mode:2つのノート間にある音程をすべて発音させます。スピードや半音階の数、スケールなどを設定することもできます。
レガート自体は、実際にレガート奏法を録音したサンプルと、ピッチ・チェンジで作られたポルタメントが組み合わさって鳴る仕組みで、中々自然な質感のレガートが作れます。
エフェクトも搭載
もちろんエフェクトも搭載されています。エフェクト・タイプとしてはREVERB / DELAY / CHORUS / PHASER / FLANGER / COMPRESSOR / EQUALIZER / FILTER。まぁ、この辺りはDAWで掛けるでしょうし、使うことはあまり無いと思います(笑)。
便利なのが、ROOMページにある「BODY」と「ROOM」という2つのIRリバーブ。ROOMはさておき、BODYは短めのIRファイルを使って楽器自体の”鳴り”を調整するようなパラメーター。これがかなり有効です。
これは弦だけでなく生楽器系全体に言えることですが、ドライなサンプルを使う場合、部屋の反響を加えるような短めのリバーブをインサートして音像を調節してあげることで、自然な質感に整えることができてオススメです。
まとめ
この他にも細かい機能は色々あるのですが、主立った部分、普段使うのはこの辺りだと思います。一応、疑似アンサンブルを作る機能もあるのですが、妙な広がり方をするだけなので、素直に他の音源と重ねて使う方が良いかと…。
MIDIキーボードで弾いてもタイムラグがありませんし(以外と重要)、表現力や柔軟さも申し分なし。新しめの製品ということもあって、ソロ弦のライブラリとしてはかなり使い勝手が良いと思います。リアルに聞かせるためにはソコソコちゃんとデータを作る必要はありますが、このシリーズでヴィオラ、チェロの登場も期待したいです。